オールジャパン工芸連携

【日本工芸週間2025】工芸の素のもと 人・自然・道具 <展示構成>

【日本工芸週間2025】工芸の素のもと 人・自然・道具  展示構成

*会期中来場予定作家 来場時間情報は公式Instagramで御確認ください 

はじまりの部屋

茅葺|くさかんむり:茅葺き職人(兵庫県) 

ススキやイネ、カリヤスといった草木素材は、古代からひとの暮らしにかかせないものでした。それらが人の手を介して用材となると、「茅(かや)」とよばれます。この茅を扱うプロ集団「くさかんむり」は、アート、建築、工芸領域を自在に横断しながら、歴史の中で一旦追いやられた世界がいかに魅力的かを、痛快なほどに知らしめてくれる存在です。本展では、会場のへそ、となる空間で、茅を「束ねる」「結ぶ」「切る」作業で、俵を公開で制作します。素材を活かす技が、3日間のこの特別なイベントに息を吹き込み続けます。 

第一部|素材美の体感

和鉄、紙、絹、土など、日本の工芸を支えてきた素材に光をあて、その美しさと尊さを空間全体で体感できる展示です。「編む、織る、叩く、描く、磨く」といった根源的な動作によって生み出された工芸作品を、素材や道具とともに紹介します。完成品の背後にある、目には見えない時間の積層と身体の記憶に触れる場です。 

 ◉Heritage Resources|(一部展示内容紹介) 

 絹|下村ねん糸* 
染織作家たちを糸商として支える、随一の「絹のソムリエ」下村輝氏。日本の絹の自給率は、たったの0.16%という衝撃の事実と、養蚕はじめ蚕糸業全体の危機に向き合い、その解決策につながる新しい糸づくりを進めています。今回はじめて誕生した、国産でないと出来ないことが明白である、生繭*での復刻糸が披露されます。*蚕が繭をつくったそのままの繭。7日以内に製糸が必要。通常は繭を乾燥させストックするプロセスが入り、茹でて戻してから製糸します。
下村輝・祐輝[下村ねん糸]:糸商(京都府) 協力:宮坂製糸所 

金箔|松村謙一

古来エジプトから1万年以上にわたり、金箔づくりは世界各地で行われてきましたが、現在はその技術が数えるほどにしか残っていません。金沢に伝わる「縁付金箔」は、職人の手仕事によってつくり上げられる日本独自の金箔です。この金箔づくりの特徴は、「紙遣い」にあります。箔打ちに用いる多様な紙の中でも、最も重要な「箔打紙」は、兵庫県西宮市名塩で採取される泥(東久保土〈とくぼつち〉)を漉き込んだ名塩和紙です。金箔職人は、この和紙をまず灰汁に漬けて叩き、光が透けるほどの飴色に仕上げてから、箔を伸ばすための紙とします。 

本展では、四方形の竹枠で形を整える前の「全判の金箔」を、金沢の経師職人が箔打紙に用いる名塩和紙に張り込んでパネルにしました。この和紙と金箔の組み合わせは、最近の調査により、国宝「風神雷神図屏風」(俵屋宗達/建仁寺蔵)と同じものであると判明しました。
松村謙一:金箔職人、金沢金箔伝統技術保存会会長(金沢/石川県)

越中五箇山悠久紙|宮本謙三*

通常太陽光で日焼けし黄変するはずが、なぜ黄変しない和紙なのか。これは、人類が編み出し、様々な工芸で活用されてきた「雪晒し」というプロセスが可能にしています。紫外線が雪にあたって発生するオゾンが素材をアク抜きし漂白します。また、風合いは柔らかくなり、繊維が強くなります。日本で入手できる和紙素材のなかで強靱さが抜きん出た悠久紙は、すべての素材を自らつくりあげてつくられています。後継者は現在不在です。
宮本謙三:手漉き和紙職人、東中江和紙加工生産組合(五箇山/富山県) 

越前和紙(雁皮)|村田菜穂
製法を授け、日本唯一の紙祖神として崇められる川上御前が現れたのは1500年前。繊維を細かくほぐす「叩解」、冬の冷たい水にさらす「寒晒し」などで鍛えられた紙は、引っ張りにつよく破れにくい、また水に強い特徴があり、紙幣の透かし技術から宇宙服まで、越前の紙すきの技が活用されています。なかでも雁皮紙は筆なじみのよさで紫式部『源氏物語』はじめ平安の公家文化を支え、1000年後の今に古のひとびとの生きた言葉を伝える高級紙です。この地が誇る最高級雁皮紙「越前鳥の子紙」は、本年12月にユネスコ無形文化遺産への追加登録されることが見込まれています。
村田菜穂:手漉き和紙職人、福井県和紙協同組合、(越前/福井県) 協力:越前市 

名塩和紙|谷野雅信

和紙×泥=可能性の塊です。しっとり、どっしりとした風合いで遮光性が高く、色あせず、虫害に強い。六甲山系の育んだ雁皮と多色の泥土が主原料。箔打ちや箔合い紙には、泥入りの雁皮紙が耐熱性の点で必要です。以前は偽造できない紙として藩札などにつかわれてきました。この展示で紹介するのは、故紙(明治大正期の和紙)を漉きなおした紙で、泥入りのため防虫・防湿効果を活かしつつ、襖づくりの2枚裏側で下地骨が透けないように使われる胴張りに使われる紙です。あわせて、この地域ならではの色泥、製作時間の8割をかける雁皮繊維、ネリとして使用する木の皮を発酵させたものやカズラの実なども展示。
谷野雅信:手漉き和紙職人、谷徳製紙所(名塩/兵庫県)

土佐和紙|田村寛
高知でつくられる土佐楮の繊維の長さが、世界一薄くて強度のある修復用紙を支えています。楮から不純物をとりのぞく際に繊維を均一に分散させ絡ませる「こぶり」とよばれる精緻なアク抜き作業も特徴。世界中から修復用の典具帖紙や、アート制作に使われる紙のオーダーに応える田村さんは楮畑の手入れ、和紙の原料づくり、紙漉きまで自分の管理下で行なっています。清流仁淀川の伏流水を活用する昔ながらの製法の紙づくりです。
田村寛:紙漉き人、紙工房 田村寛(土佐/高知県) 協力:西村優子、深井桂子 

名尾てすき和紙|谷口弦
楮よりも繊維が長い自社栽培の梶の木を原料とした紙づくり。光を透過する強い紙として全国の提灯や障子、番傘づくりを支え、漉く紙の厚さは10種類。墨にじみがなく、文化財修復にも使用されています。2021年の九州豪雨災害では土石流に工房と店舗が流されてしまいましたが2023年新工房をオープン。谷口さんは和紙そのもののカタチがない自由さを主題に現代アーティストとしても活躍しています。300年の歩みを未来へとすすめています。
谷口弦:名尾てすき和紙、アーティスト(名尾/佐賀県)

すくもと泥藍|池原幹人、丹羽花菜子
 日本の藍づくりは「すくも」と「沈殿藍(泥藍)」、大きく2つのアプローチがあります。
 藍葉ごと染料として使用する「すくも」は、徳島を中心に日本全国で主にタデ科のタデアイから製造されています。
タデアイは葉にのみ藍色素を含むため、藍草を収穫したあと細かく刻み、色素を含む葉のみを使用します。一度天日で乾燥させたあと定期的に打ち水を与えて切り返しながら3ヶ月ほどかけじっくり発酵させて堆肥化し、染料とします。
 泥状の濃縮液を染料とする「泥藍」は、キツネノマゴ科のリュウキュウアイを中心に沖縄各地で製造されています。収穫した藍草を素早く水に浸し、24日ほどかけて発酵し、色素を抽出したあと藍草を取り除いて残った抽出液に消石灰を加えて攪拌(酸化)し、藍色素を生成させ、沈殿を待って少しずつ余分な水分を取り除いて泥状の濃縮液をつくり、染料とします。
 今回の展示では、スクモと泥藍で薄い藍と濃い藍の2色を染めていただきました。どちらの藍も無農薬で栽培され、より天然藍の魅力を感じる事のできる天然灰汁発酵建てで藍建てを行い、藍染しています。 

藍染め|池原幹人
戦前から沖縄の藍作りに使われていた藍壺を復元し、藍の栽培から泥藍の製造、染織までを一貫して行なっています。
池原幹人:藍ぬ葉ぁ農場(沖縄県) 

藍染め|丹羽花菜子
山の麓の畑で 無農薬で藍を栽培しながら. “天然灰汁醗酵建て” という. 自然界にある原料のみを用いる昔ながらの手法で. 藍染を行っています。
丹羽花菜子:藍染め作家、藍染風布(茨城県) 

竹工芸コレクション|斎藤正光
現代アートの視点で飯塚琅玕齋を再評価し、竹工芸の価値を世界に知らせ新たな市場を開いた、竹工芸コレクターでありプロデューサーの齊藤正光さん。 通常風雨にさらせば7年で土になる、しかしひとが手を掛けた竹は長持ちします。不思議かつ人類にとって有用な、魅力在る素材です。いま世界で日本の工芸と言えば?の代名詞となるほどに、感動をよび続けるアートです。
齊藤正光:竹工芸プロデューサー、コレクター(栃木県、東京都)

素材と手の技(作品・道具・素材)|一部展示内容紹介

人類の文化と文明は、すべてシンプルな「手」の行為から始まっています。その動きを突き詰め、最高峰に達したとき、それは新しい時代を拓く力となりました。「削る」「磨く」「織る」といった行為が、素材を洗練させ、交易を生み、そして文明の進化を加速させてきたように、また「叩く」が物質を変形させ、「染める」「燻す」が強靭に、「描く」力が純粋な感動を軸に前進させたるように、この空間では古代から未来へと続く、自然素材を工芸へと変化させてきた「手技」に焦点を当てます。象徴的な手技8つ―叩く(鎚起銅器)、削る(木工)、磨く(漆芸)、編む(籠)、績む・織る(楮布織)、燻す(陶芸)、染める(琉球藍)、描く(色絵磁器)―幅広い作品のつくり手たちの作品と、制作を支える道具が展示されます。 

叩く​|金工:玉川堂*  鎚起銅器(燕三条/新潟県)
削る​|木工:川口清三  木工作家、日本工芸会(愛知県)
磨く​|漆芸:室瀬和美*・祐*
 室瀬和美:漆芸家、重要無形文化財「蒔絵」保持者、日本工芸会(東京都) /室瀬祐:漆芸家、「工房山のは」代表、日本工芸会(茨城県)
編む|籠:渡部萌*  編組品作家(山梨県)
績む・織る​|楮布織:石川文江 楮布織作家(徳島県)
燻す|陶芸:鈴木まこと​ 陶芸家(沖縄県)
染める​|琉球藍:池原幹人 藍ぬ葉ぁ農場(沖縄県)
描く​|色絵磁器:牟田陽日 美術家/陶芸家/九谷焼作家(九谷/石川県) 

たたらの部屋|一部展示紹介


 たたら製鉄〜砂鉄から鉧(けら)、玉鋼まで|たなべたたらの里*
 古代より明治期に至るまで、日本の鉄製品の素材をつくっていた日本独自の製鉄技法「たたら製鉄」。そこから生まれる「和鋼(わこう)」「和鉄」「和銑(わづく)」は、森、山、川、土、砂、木、炎という森林に拡がる遠大な資源と人の技が結晶した、日本の工芸素材の一つの象徴です。
 かつて国内の鉄づくりを支え、出雲地域の誇りであったたたら製鉄は、大正期に一時途絶えてしまいましたが、かつて出雲三大鉄師筆頭であった田部家が、この土地のルーツであるたたら製鉄を7年前に復興し、産業として山を再生し、観光拠点づくりなど地場産業として新たな歩みを始めました。
 金属工芸においては、鉋や茶釜などの鋳物まで、和鉄だからこそ実現できるものがあります。本展示では、この地域の象徴であるたたら製鉄の技術と想いを、現代の新しい価値創造へとつなぐ取り組みを紹介します。 

日本刀|下島房宙:刀鍛治(埼玉県)
鉋(和釘から鉋刃まで)、小刀|三代目千代鶴貞秀(森田直樹):鉋鍛治、伝統工芸士(三木/兵庫県)
茶釜、釜環|長野烈:鋳金作家、日本工芸会(東京都)
和剃刀|水落良市:日本剃刀鍛冶、伝統工芸士、三条製作所(燕三条/新潟県)
庖丁|日野浦司:鍛冶職人、日野浦刃物工房(燕三条/新潟県)
鉄瓶|田山和康:田山鉄瓶工房 伝統工芸士(南部/岩手県) 協力:たなべたたらの里 

第二部|素材の伝統から未来を拓く「素材温故未来」

 伝統素材を未来へどう活かすか──。この問いに対し、つくり手・企業・研究者が集い、用途や視点の可能性を探る“出会いと提案”の場です。分野を越えて交わることで、素材を起点とした新たな価値が生まれる循環(エコシステム)を育み、これからの「使い手」「支え手」との新たな関係性を開きます。
 良質な素材を生み出す技術は、失ってはならない、未来へつなぐべき日本の大切な資産です。
 365日手をかけて素材を育み、ていねいに採取した素材に、さらに人の技を尽くすことで、現代の知見をもってしても驚嘆する卓越性が生まれ、継承されてきました。
 工芸の素材選びには、山林が国土の7割を占める地形や自然災害の多い、日本ならではの、知恵と検証(エビデンス)が詰まっています。ぜひ、その深い知恵に驚き、触れてください。
 また、素材と真剣に向き合うとき、限られた資源を未来へ循環させる必要性にも気づくことができるでしょう。
この空間では、いま、素材の新たな可能性を拓く取り組みと成果をご紹介いたします。
 「素材をさらに高める技術」「短時間で実現する新しい手法」「工芸の枠を超えた新しい展開」など、未来の工芸に活用可能な技術やプロジェクト、そして協働の呼びかけも同時に紹介されます。
 未来を拓く可能性の塊でもある「ヘリテージ素材」の意味を、多くの方に気づいていただける、日本工芸週間ならではの「つながりの場」をここに創出します。 

桐/光る桐と雪板、スノーボード、鈴鹿さん*の桐箱| 星比呂志*、齊藤洋一*[会津里山森林資源育成研究会](会津/福島県) × 根津安臣*[桐匠根津](みなかみ町/群馬県)協力:鈴鹿五郎[指物職人、選定保存技術「美術工芸品保存桐箱製作」、鈴鹿桐箱店](大阪府)
ハゼノキ・木蝋の可能性| 内田樹志*[ハゼノキ植人](鹿児島県)
 ”森になる建築”| 株式会社竹中工務店*
 “KOBE 備長炭” “MORI TAG システム®” ~里山資源活用〜| 協力:神戸市*、Arboreta合同会社
古くて新しい工芸素材の魅力| 三橋弘宗*、山崎昌男*[一般社団法人小規模保全技術研究所]、宇野君平*[成安造形大学/アーティスト]
世界初・常温15秒で染まる草木染め| 共同開発者:加賀友禅作家・久恒俊治*[工房 久恒/Japancraft21クラフトリーダー](金沢/石川県)
漆とアウトドア/Nodateシリーズ(関美工堂)、漆サーフボード(堤淺吉漆店)| 関昌邦*[株式会社関美工堂代表/ Japancraft21クラフトリーダー](京都府)、堤卓也*[堤淺吉漆店/Japancraft21ファイナリスト](会津/福島県)
国産漆/全国のウルシ植栽状況(ポスター展示)| 一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパン* 協力:田端雅進*[九州大学 /森林総合研究所フェロー]
国産絹/生繭復刻糸紹介+真綿・紬糸ワークショップ(随時開催)| 下村ねん糸* ほか複数有志団体
い草/い草の未来とアートパネル(展示)| 村上キミ*、田中ノリコ*[イチイチ](熊本県)
クジラの髭とものづくりの可能性| 一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパン* 協力:太地町立クジラ博物館(和歌山県)