絶滅危惧の素材と道具

良いものづくりが可能である環境を未来へ…[7つの動画]1

CoJでは、21世紀鷹峯フォーラム3年にわたり、「絶滅危惧の素材と道具」研究会を、多くの機関や研究者のご協力のもとに行ってきました。
ここまでに得た情報をもとに、いま、この課題の解決に向けて、一般の方とともに、なにを行うべきかを考え、7本の動画を作成しました。

1本めに作成した動画は、ひとつの素材・技術が、多岐にわたり、つくり手や工芸品に必要とされていることがわかるものを形にすることが目的のものです。
研磨炭4種を手がける、ただひとりの炭づくりの職人、福井の木戸口武夫さん。木戸口さんの環境、作業の上でいま何が起こっているのか、研磨炭を使う方の言葉とともにご覧いただきます。

2017年11月17日、石川県立美術館にて、行った「絶滅危惧の素材と道具『いま何が起こってるのか』シンポジウム」にて、この動画をご覧いただきましたのちに、木戸口武夫さんを取り巻く課題について、みなさまと話し合いました。

その様子は21世紀鷹峯フォーラムページのレポートもご覧ください

絶滅危惧の素材と道具 いま起こっていることシンポジウムレポート

■Behind the scenes 舞台裏から~ (CoJ岩関禎子)

漆芸のみならず、レンズや精密機器など日本の近代以来の輸出産業を陰で支えてきた研ぎの技術。その研ぎになくてはならないものが、研磨炭でした。

代替品が登場した現代においても、また将来においても、高い精度が求められる製品には欠くことのできない道具です。

この動画の中では、多くの方からその必要性をお話しいただいています。代替品、サンドペーパーやクリスタル砥石などで磨いたときと、どう違うのかなど。それらを仮説とし、数値でわかるよう専門試験機関と相談や助言を受けながら、続けて調査してまいります。

今回、とりあげた木戸口さんのケースは、課題が複雑です。
つくり手にとっては、これまでに買い込まれたものをお持ちであったり、目の届く息子の代まで確保すればうちは心配ない、というような認識を持っている場合が多いことに加え、経年の劣化が少なく、またすぐに減るものでないために危機意識の少ないアイテムです。しかしその状況のなか、木戸口さんは、つくる技術と、つくり続ける矜持をお持ちの唯一の方です。
研磨炭を使わないでサンドペーパーで磨いた方が早いし、本当は違いがあるけれど消費者が気付くほどのこともない、という言葉も耳にすることも多く、使い手は高い志を持ってものづくりをしている人に限られつつあります。今回、お聞き出来た研磨炭を使っている方々のお話しは価値あるものと思います。

漆を磨き平滑にする、という磨きの専門職・蝋色師(ろいろ)は、現在は輪島にしかいません。そのうちのお一人にプロの視点からお話に答えていただきましたことも心強いものでした。
研磨炭は漆分野、金工分野、レンズ、お札の印刷の金属版はじめ産業の現場まで用途があります。今後この活動を通じ、「無くては困る!」との声が広範で大きな形として見えるところまで、もっていきたいと願っています。

こうした課題を解決するには、研磨炭の使い手(工芸のつくり手)だけが背負えるものではありません。
行政の力、そして、一般の方々の力を集めていくことができれば、もっと根本からの解決に向けられるかもしれません。まだ答えがはっきりしないため、クラウドファンディングのように呼びかける段階には至ってまでいませんが…

この動画の昨秋の公開以降、さまざまな動きがわずかながら起こっていますので、みなさんの反応を待ちながら、続けて考え続けてまいります。