工芸英訳ガイドライン

【工芸英訳ガイドライン】突然、英語版のパンフレット、案内板、図録をつくる際の担当者になってしまった・・・、そんな方にぜひ見て欲しい動画「レモンちゃんの失敗」

突然、英語版のパンフレット、案内板、図録をつくる際の担当者になってしまった・・・
そんな方にぜひ見て欲しい動画「レモンちゃんの失敗」

 

CoJより、工芸に関わるすべての方への提案です。
陶磁器、漆、染織、金工など日本の工芸品を英訳する担当者のみなさん、ネット上の自動翻訳、そして翻訳会社に丸投げ、その方法を考え直しませんか。
そんな提案の動画「レモンちゃんの失敗」はこちらです。

日英併記のパンフレット制作の担当者になってしまったレモンちゃん。
それなりの予算をかけてでき上がったけどあれれ・・・?というストーリーです。


ポイント1 インターネットで見つかる情報は、思いのほか信用できない!


訪日観光客に関心も人気も高い、日本の工芸。
日本の文化発信、インバウンド強化や、アウトバウンド強化の対象として、多言語化はさまざまな場面で求められています。案内のためにバイリンガルのWebサイトやパンフレットをつくりましょう、という大きな流れのなか、英訳に関して戸惑ったり、あるいは勘違いしたまま進めてしまったりしていませんか?

予算が少ないにもかかわらず、英語化する必要に迫られる現場の話をよく聞きます。そのような場合、簡単なキャプションやタイトルなど、できそうなところは自分で訳してみよう、となることもあるかもしれません。現代では「まずはネットで検索、そして英訳」ではないでしょうか。

「あの施設のサイトではこう訳されていた」
「ネイティブに『これは英語でなんて言うの?』と訊ねる」
「ネット辞書にはこう出てくる」

みなさんにもご経験があるかもしれませんが、実はこれが、かなり厄介で信用ならない落とし穴なのです。

CoJの調べによると、著名な国公立施設を含む、ほぼ9割の多言語化担当者が、「自信のないまま」翻訳の仕事に従事しています。

ネットや印刷物から探して出てきた訳語の事例は、信頼できるものか、本当に伝わる言葉なのか、考えたことがありますか?
「言葉」は相手に伝えたいことが伝わってはじめて意味を持ちます。ただ別の言語に置き換えるだけでなく、英語圏でなおかつ日本の文化に精通している専門家に、きちんと確認してもらう必要があります。
かつてロンドンでCoJが実施した「100人に聞きました」の調査では、著名な国公立の美術館や団体、自治体が使っている訳語を提示したところ、失笑を買った例も残念ながらありました。

さらに、「言葉」は生き物です。20年単位で、表現も微妙な意味合いも変わっていきます。以前ならOKとされていた訳語であっても、今は「こうは言わない」「言ってはいけない」こともあります。にもかかわらず、その情報が行き渡っていないために、誤った古い情報が流布されているケースも見受けられます。
ネットの情報はあくまで参考情報としてインプットするのみにしましょう。間違っても鵜呑みにしてそのまま流用することのないよう、お気を付けください。


ポイント2 横文字で記載すればひとまず満足、から脱却しましょう。
頼る時は、ただの「ネイティブ」ではなく、分野の、言葉の「プロ」に。


日本人にありがちなのが、お飾り的に横文字をひとまず記載しておく、というもの。
英語によって伝わる人数は、日本語話者(1億人)の12倍に相当します。きちんと伝わる英語を使ってこそ、意味があります。
英語圏で過ごした経験の浅い日本人が英語表記を決めるケースが多く見られますが、それは避けたほうがよいことです。少し日本語を解する海外の人が、日本語の語句・言い回しを決めるようなものだと思ってください。

また、英語を母語とするからといって、翻訳内容の分野では門外漢の人に依頼してしまうと、残念ながらその翻訳はあてになりません。お金をかけた結果が伝わらない翻訳では、せっかく訳してもらっても無駄な努力になってしまいます。
伝統のある文化や風俗、技術や固有の素材を説明するのは、とても難しいことです。
翻訳の外注先には、ふさわしいかたを探すことにまずは注力ください。

「ふさわしいかた」とはどこで見つければいいのか?
CoJでは、まだまだ全ての分野ではお応えできませんが、いずれは分野ごとに精通した頼るべきプロをご紹介できるよう、今後もこの活動を進めてまいります。


ポイント3 「説明できないから」「これが名前だから」という理由で、日本語の音をただローマ字表記にした音訳ばかりでは、そもそも読んでもらえません。日本語の音をそのままローマ字にした表記が必要なのはどういう性質の言葉なのか、またその場合に気をつけるべきルールや、日本語を英語化するときのルールを翻訳者と共有しましょう。
また、翻訳者のために日本語の意味分解をしたものを、別の原稿として準備しましょう。


「産業用語集がなければ、翻訳会社に外注しても、いい翻訳なんてできるはずがありません」と言われて、ハッとしたことがあります。
車や時計や家電、医薬品などの分野は、それぞれの用語はこの言葉を使うというルールにもなる産業用語集が準備されてきました。しかし工芸にはそれがありません。

 

工芸に関する翻訳あるいは多言語化に関わる方は、ひとまず以下のことを参考にしてください

◉日本の工芸は、産業革命後もその荒波の影響を最小限で残ったことが大きな特徴ですが、世界にも同様の工芸は数多く存在します。それゆえ、翻訳時の言葉や表現で、イコール(=/ぴったり同じ)でなくともニアリーイコール(≒/ほぼ同じ・近い)の訳語を示せる場合は、それを使いましょう。指し示す言葉がほかには存在しないことが明白な場合のみ、日本語の音訳に英語の説明をつけるかたちで表します。

◉歴史上の旧藩名などは、現在の地名に置き換えて紹介するほうが伝わります。どうしても旧藩名を用いたい場合は、説明を付記しましょう。

◉“Japanese〜”の濫用には注意が必要です。「鏨(たがね)」を日本ならではのものであるという理由で“Japanese Chisel”と訳すと、固有名詞としての「ニホンタガネ」だと誤解される可能性があります。

◉表記法については、観光庁の多言語化解説整備支援事業のページと、SWETが編纂したJapan Style Sheetをご参照ください。

◉工芸の英訳に関する意見がさまざま存在することをまとめた、CoJの工芸英訳ガイドライン第一弾も参考にしてください。